「ビットコインが金価格を上回った」報道の罠

金融リテラシーを試される報道


ビットコインが金の価格を上回ったという意味のない報道が出回っています・・・。

ビットコイン価格が2日、金を上回った。トランプ米大統領の下で規制環境が緩和されるとの観測が高まり、ビットコインは今年に入って32%上昇している。米証券取引委員会(SEC)はビットコインに基づく上場投資信託(ETF)に関する提案について、11日までに決定を下す見通しだ。

ビットコイン価格が金を上回る、ETFに関する決定控え

ビットコインの通貨単位はBTCで、日本時間の2017年3月3日(金)0時20分時点では、1BTCが1241.30ドル(約14万2000円)、金1オンスが1241.25ドル(約14万1980円)となっていました。

たしかに価格だけ見れば金よりビットコインの方が高くなっていますが、これはビットコインが金という昔からある貴金属の本質的価値を上回ったということなのでしょうか・・・。



ドル円で考える「価値」


たとえば現在、1アメリカドル≒114円です。

1円と1アメリカドルを比べた場合、1アメリカドルは1円の114倍で、単純な価格差で見れば、アメリカドルは日本円の114倍の価格なわけです。

ではそれが、アメリカドルという通貨自体の価値(信認と置き換えてもいい)が日本円の114倍かといわれればそうではないでしょう。

実生活で考えるともっとよくわかります。

アメリカドルの流通最小単位は0.01ドル、つまり1セントです。

一方、日本円の流通最小単位は1円です。

つまり、日常生活で使っている限り、2000円くらいのDVDがアメリカでは20ドルくらいで買えるわけで、もちろん感覚的にどちらの方が安目だ、高目だという違いはありますが、上で比べたように100倍を越えるような差を一般消費者が感じているわけではありません。

別の言い方をすれば、通常、我々は100円≒1ドルとして頭の中で100倍/100分の1に変換してドルと円の価値を比較しているわけです。

ビットコインの最小通貨単位


ビットコインが使えるお店は増えていて、先月はビックカメラがビットコインでの決済を試験導入するということがニュースにもなりました。

たとえば1,980円のUSBメモリを買おうとしたらビットコインで払えるわけです。

が、ちょっと待ってください。

1BTCは14万2000円です。

ビットコインで支払うには、1,980円は安すぎます。

ところが、ビットコインの最小通貨単位は0.00000001BTC(=0.00142円)なのです。

ドルの最小単位が0.01ドル=1セントで、セントという補助通貨単位があるように、0.00000001BTC=1satoshiで、satoshiというビットコインの補助通貨単位があります。

ちなみにsatoshiの名称はビットコイン理論の発明者といわれるSatoshi Nakamoto氏から取られています。

また、他の補助単位として、1mBTC(ミリビット) = 0.001BTC(=142円) , 1μBTC(マイクロビット) = 0.000001BTC(=0.142円)などがあります。

つまり、ビットコインを使って実生活上でUSBメモリを買ったり、コーヒーを買ったりする場合は、この補助単位(小数点のBTC)で支払うということになります。

金とビットコインの資産価値総額


実用されるのが補助通貨単位である以上、1BTC=14万2000円という数字の規模には何の意味もないことがわかります。

トヨタの株価は約6000円ですが、ビットコインがトヨタ株の24倍近く(= 142,000 ÷ 6,000)の価値があるかと言われれば、額面通りには比較できないということが誰でもわかると思います。

単位あたりの価格比較には意味がないので、その資産価値総額で比較してみます。

ビットコインは発行上限が2100万BTCと決められており、2016年10月時点の流通通貨総量は1500万BTCといわれています。

一方、World Gold Councilの資料(PDFリンク)によれば、2010年時点で民間投資用の金だけでも在庫総量は31,400トンになります。




1トンは35,274オンス、金は1オンス≒14万2000円なので、31,400トンの資産価値総額は157兆円(=31,400 × 35,274 × 142,000)です。

宝飾品の形で金を保有してる場合や、政府が所有している金も合わせた総量では、168,300トンになるので、現存している金の資産価値総額は842兆円(= 168,300 × 35,274 × 142,000)に及びます

対してビットコインは、流通総量1500万BTCの資産価値は2兆円(= 15,000,000 × 142,000)にしかなりません

発行上限の2100万BTCに達しても3兆円程度、対して金は毎年4300トン強が生産され、総量および資産価値総額は増加し続けています。



まとめ:ビットコインは金の足元にすら及ばない


このように、流通資産総額でいえば金の842兆円に比べてビットコインは2兆円しかなく、市場規模としてビットコインは金の420分の1以下であることがわかります

また、希少価値が高いほど価格も高くなる傾向にありますが、ビットコインの1500万BTCに比べて、金は60億オンス(= 168,300 × 35,274)と比較にならないほどの流通量があるのにも関わらずその値段がほぼ同じ(1BTC≒金1オンス)というのは、逆にそれだけ金自体の価値の高さを裏付けるものです。

ビットコインに代表される仮想通貨は、その発行上限を制限すること(ビットコインであれば2100万BTCまで)によって通貨価値の希釈を防いでおり、発行量の制限が価値向上に寄与しています。

この点、もしビットコインが60億BTCまで発行されればその価値は希釈され、金1オンスとの価格とは比べるまでもなく下落するでしょう。(実際にドイツマルクやジンバブエドルではハイパーインフレによる通貨の急落が起こり、札束を持っていってもパン1つ買えないという事態に陥りました)

ということで、ビットコインが金の1オンスあたりの金額を上回ったからといって、ビットコインが金以上の資産価値を持つようになったといった論調は全くのお門違いなのです。

ビットコインと金の資産総額、流通量、市場規模を比べれば、まだまだビットコインは本貨たる金の足元にも及ばないことがわかると思います。

ただ、金は数千年の歴史を経て認めれらてきたある意味最古の本貨であるのに対して、2009年に使用が開始され、たかだか7年強の歴史しかないビットコインが金の420分の1の市場規模にまで迫っているのは驚くべきことであり、そういった価値急上昇というボラティリティーの観点からは投機先としてギャンブルしたい人にとってはいいかもしれません

ビットコインのマイニングが中国に握られているというのを承知の上であれば・・・。



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